系統用蓄電池の海外の事例と動向

次世代電力システムにおける系統用蓄電池の動向

海外事例から学ぶ活用のポイント

2023年2月、脱炭素、エネルギーの安定供給、経済成長を同時に実現するための「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました。この中で、「系統整備・調整力の確保」が再生可能エネルギーを主力電源化するための重要な柱として位置づけられています。電力の安定供給のために、余剰電力を蓄えたり放電したりする系統用蓄電池の導入が加速しています。海外では日本より先行して系統用蓄電池を導入している国々があります。これらの事例を参考に、日本で系統用蓄電池を導入するポイントを紹介します。

英国の事例:再エネ大量導入に向けた取り組み

再生可能エネルギーの大量導入に対応するため、英国では先進的な電力市場設計が進められています。周波数品質の低下に対応するため、より迅速な応答が可能な調整力の確保が求められ、蓄電池を含む分散型エネルギーリソース(DER)の系統利用を促進するための抜本的な改革が行われました。

2023年には需給調整市場の商品が刷新され、2021年からは卸電力取引市場、バランシングサービス、バランシングメカニズムといった複数の市場に対して同時にサービスを提供する「同時入札」が認められました。これにより、収益を積み重ねることができ、市場取引で収益を得るマーチャント型のビジネスがしやすくなりました。

導入の成果

こうした背景のもと、英国では2020年度末には約1GWだった蓄電池の導入量が、2022年度末には2倍近くの1.93GWまで増加しました。

日本での導入ポイント

市場設計の改革:英国の事例から、迅速な応答が求められる調整力の確保と、複数の市場に同時に参加できる制度設計が重要であることが分かります。これにより、蓄電池の導入が促進され、収益性が向上します。

収益の多様化
同時入札の仕組みを導入することで、蓄電池事業者は複数の収益源を確保できるようになります。これにより、経済的な安定性が増し、投資が促進されます。
政府の支援
系統用蓄電池の導入を促進するために、政府による補助金や支援制度の強化が重要です。英国の事例では、政策的な支援が蓄電池の普及に大きく寄与しました。

次世代電力システムの実現には、系統用蓄電池の導入が不可欠です。海外の事例から学ぶことで、日本でも効果的な市場設計と収益モデルを構築し、再生可能エネルギーの安定供給を実現することが可能です。持続可能なエネルギーシステムの構築に向けて、系統用蓄電池の導入を積極的に推進していきましょう。

英国における「即応性」と「提供能力」の重要性

英国の送電システムの課題

英国の送電システムでは、再生可能エネルギーの導入に伴い、系統の混雑を回避するために発電機の出力制御や系統増強が行われてきました。しかし、特に英国北部での大規模な風力発電の増加により、出力制御による供給不足を他の地域の電源で補うための再給電コストが増加しています。このコストは、発電事業者がさまざまな市場から得られる収入や損失額に基づいて決定されるため、上昇傾向にあり、コスト低減の取り組みが急務となっています。

蓄電池の柔軟な対応

この問題に対して、蓄電池の柔軟な対応が注目されています。蓄電池は、混雑が発生した際に即座に充電を行うことで、停電を防ぎながら系統を維持することが可能です。英国では、必要な時にだけ蓄電池を使用するのではなく、24時間365日対応可能なように、1~6年の長期契約を結んでいます。この長期契約により、蓄電池事業者は安定的な収入を得ることができる反面、他の市場には入札できないという制約があります。これらの契約はPathfinderプロジェクトとして知られています。

Pathfinderプロジェクトの概要

Pathfinderプロジェクトは、英国における長期蓄電池契約の一例です。このプロジェクトでは、長期にわたる契約を通じて蓄電池の即応性と提供能力を確保しています。

長周期蓄電池の必要性

現状、英国では1~2時間程度の運転が可能な系統用蓄電池が主流ですが、カーボンニュートラルの実現に向けては、より長周期の系統用蓄電池の増加が必要です。このため、Cap and Floor制度と呼ばれる最低限の年間収入を保証する制度も検討されています。

日本における取り組み

日本でも、長期脱炭素オークションのもと、1日1回以上3時間以上の運転継続が可能な蓄電池に対して固定費の回収を保証する仕組みの検討が進められています。これにより、蓄電池の普及と持続可能なエネルギーシステムの構築が期待されています。 and Floor制度と呼ばれる最低限の年間収入を保証する制度も検討されています。

英国の例からわかるように、蓄電池の「即応性」と「提供能力」は、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う系統の安定性を確保するために非常に重要です。長期契約や収入保証制度を通じて、蓄電池の普及を促進し、持続可能なエネルギーシステムの実現を目指す取り組みが、今後も求められます。

豪州における系統用蓄電池の積極的な活用

豪州の再エネ導入と蓄電池の役割

豪州では、再生可能エネルギーの導入が急速に進んでおり、これに伴う系統の安定性確保のために系統用蓄電池が積極的に活用されています。特に、太陽光発電や風力発電の導入が進む中で、電力供給と需要のバランスを取るための柔軟な対応が求められています。

蓄電池の即応性と提供能力

豪州の送電システムでは、発電機の出力制御や系統増強により、再エネ導入に伴う系統の混雑を回避してきました。しかし、大規模な再エネ発電が増加する中で、出力制御による供給力の不足を他のエリアの電源で補う再給電のコストが増加しています。このコストは、発電事業者が市場から得る収入や損失額に基づいて決定されるため、上昇傾向にあります。

蓄電池の柔軟な対応

この問題に対する柔軟な対応策として、蓄電池が注目されています。混雑が発生した際に蓄電池が即座に充電を行うことで、停電を防ぎながら系統を維持することが可能です。豪州では、必要な時に蓄電池を調達するのではなく、24時間365日対応可能なように長期の相対契約を結んでいます。これにより、蓄電池事業者は安定的な収入を得ることができ、Pathfinderプロジェクトのような長期契約に基づくプロジェクトが進行しています。

Pathfinderプロジェクト

Pathfinderプロジェクトでは、長期契約を通じて蓄電池の即応性と提供能力を確保しています。これにより、系統の安定性が向上し、再エネの大量導入が可能となります。

長周期蓄電池の必要性

現状、豪州では1~2時間程度の運転が可能な系統用蓄電池が主流ですが、カーボンニュートラルの実現に向けて、より長周期の系統用蓄電池の導入が必要です。このため、Cap and Floor制度と呼ばれる、最低限の年間収入を保証する制度も検討されています。

日本への適用

日本でも、長期脱炭素オークションを通じて、1日1回以上3時間以上の運転が可能な蓄電池に対する固定費の回収保証制度の検討が進んでいます。これにより、蓄電池の導入が促進され、持続可能なエネルギーシステムの構築が期待されています。

豪州の事例から分かるように、系統用蓄電池の即応性と提供能力は、再生可能エネルギーの大量導入に伴う系統の安定性を確保するために非常に重要です。長期契約や収入保証制度を通じて、蓄電池の普及を促進し、持続可能なエネルギーシステムの実現を目指す取り組みが、今後も求められます。

価格低下やファイナンスリスクに関する課題

蓄電池市場の競争と価格低下のリスク

英国では、蓄電池の導入量が増加し、市場参加者が増えました。特に、蓄電池の強みを発揮できる需給調整市場の商品は既に飽和状態に近づいており、今後価格が低下するリスクがあります。初期段階では高収益が期待できる商品でも、競合が増えると価格が低下することが予想されます。そのため、単一の商品の収益に依存せず、複数の市場でサービスを提供する入札戦略が必要です。

蓄電池の劣化と長期的な収益見通し

蓄電池は使用するにつれて最大容量が減少し、劣化する特性があります。長期的に投資を回収する系統用蓄電池では、劣化を考慮し、将来の収益見通しや更新時期を計画することが重要です。これにより、長期にわたる安定した運用が可能になります。

マーチャント型ビジネスモデルのリスク

マーチャント型のビジネスモデルは、市場価格の変動に大きく影響されるため、ハイリスク・ハイリターンの事業環境です。固定価格買取制度を利用した発電事業など、安定した収入が得られる既存の電力関連ビジネスとは異なり、金融機関からの融資を得るハードルが高いという課題があります。このため、収益を安定させるための戦略が求められます。

収益確保のためのシステム

Pathfinderプロジェクトでは、長期契約を通じて蓄電池の即応性と提供能力を確保しています。これにより、系統の安定性が向上し、再エネの大量導入が可能となります。

長周期蓄電池の必要性

蓄電池の運用には、基本的な監視・充放電制御機能に加え、収益性を確保するためのシステムが必要です。具体的には、各市場との連携や収益性評価などの機能が求められます。これにより、最適なタイミングでの充放電を行い、収益を最大化することができます。

サプライチェーンの課題

国内で電池サプライチェーンを維持・強化できない場合、海外からの輸入に依存することになり、価格が高騰する可能性があります。これに対処するため、国内のサプライチェーンの整備と強化が重要です。

蓄電池市場の競争激化や価格低下のリスク、蓄電池の劣化と収益見通しの計画、マーチャント型ビジネスモデルのリスク、そしてサプライチェーンの課題に対処するためには、複数市場へのサービス提供や収益性確保のためのシステム整備が不可欠です。これらの課題を克服することで、蓄電池の導入と運用がより安定し、持続可能なエネルギーシステムの実現に貢献できます。

市場の成熟を見据えた運用の準備:日本での取り組み

制度と市場の理解

日本で蓄電池事業を成功させるには、関連制度や市場状況を深く理解し、地域ごとの将来的な収益性評価を行うことが不可欠です。

ソリューション開発への取り組み

日本では、海外の先進事例を参考にしながら、系統用蓄電池の活用に向けたソリューション開発が進められています。供給区域別の電力需給シミュレーションモデルを活用し、卸電力価格や需給調整市場価格などの電力取引市場価格の将来見通しを基に、蓄電池事業の戦略策定を支援しています。

蓄電池事業の運用支援サービス

日本国内での蓄電池事業の運用を支援するため、次のようなサービスが開発されています。

MERSOL(MRI Energy Resource Solution)

MERSOLは、蓄電池の最適運用パターンや運用収支見込みのシミュレーションを行うWebサービスです。導入された蓄電池向けに、日々の最適な運用計画を提供することで、効率的な運用を支援します。

MPX(MRI Power Price Index)

MPXは、卸電力市場に影響を与えるさまざまなファンダメンタルデータや、電力取引やリスクマネジメントの指標となる電力フォワードカーブを専用WEBサイト上で提供するサービスです。

今後の展望

Pathfinderプロジェクトでは、長期契約を通じて蓄電池の即応性と提供能力を確保しています。これにより、系統の安定性が向上し、再エネの大量導入が可能となります。

長周期蓄電池の必要性

日本では、これらのサービスを通じて、蓄電池事業の運用を支援し、再生可能エネルギーを主力電源とするための系統用蓄電池の普及を促進しています。市場の成熟を見据えた運用準備をしっかり行うことで、安定した収益と持続可能なエネルギーシステムの実現を目指しています。今後も多様な形で電力ビジネスを支援し、再生可能エネルギーの普及を後押ししていきます。

参考:「次世代電力システムにおける系統用蓄電池の動向」https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20231030.html

 

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