電力の安定供給を確保する仕組みとして注目される「容量市場」。その中で実需給1年前に実施される「追加オークション」は、需要や供給の変化に対応する重要な役割を担っています。
2026年度を対象とした今回の追加オークションは、全国を対象に初めて開催され、一部エリアで供給力が不足するなど大きな課題も浮き彫りになりました。
この記事では、その結果や特徴、エリア別の不足状況、価格動向、さらに再エネや蓄電池が果たす役割について分かりやすく解説し、容量市場の今後を考察していきます。
容量市場と追加オークションの基本概要
電力の安定供給をどう守るかは、多くの人にとって気になるテーマです。その中で「容量市場」という制度が導入され、さらに「追加オークション」という仕組みが注目されています。これは、電力を安心して使えるように、将来の供給力を前もって確保するための仕組みです。
はじめに、容量市場が生まれた背景や目的、メインオークションと追加オークションの違い、そしてなぜ追加オークションが必要とされているのかを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
容量市場が導入された背景と目的
容量市場が導入された背景には、電力自由化の進展と老朽化した火力発電所の増加があります。
従来の電力市場は、発電した電気を売買する「卸電力市場」が中心でしたが、それだけでは将来の供給力が十分に確保できるとは限りませんでした。
電力は必要なときに必ず使えることが大前提であり、その安定性を担保するために、発電容量そのものを取引する仕組みとして容量市場が生まれました。つまり、容量市場とは「将来のある年度に必要な供給力を確保するため、電源の利用権を事前に契約する制度」です。
これにより、発電事業者は収益の安定を得やすくなり、必要な投資が行いやすくなります。一方で、利用者側にとっては電力の安定供給が期待できることが大きな目的といえます。
メインオークションと追加オークションの違い
容量市場の中でも重要な役割を担うのが「メインオークション」と「追加オークション」です。
メインオークションは、実需給年度の4年前に実施されるもので、電力需要の見通しに基づき、必要な供給力を一括で確保する仕組みです。これに対して追加オークションは、実需給年度の1年前に行われます。
なぜ1年前に再びオークションをするのかというと、4年前の見通しから状況が大きく変わる可能性があるからです。たとえば、火力発電所の廃止や再稼働、再エネや蓄電池の新設など、電源の状況は数年間で大きく変化します。その変化を補正し、最新の需給バランスに近づけるための仕組みが追加オークションなのです。
こうした2段階の仕組みによって、電力の安定供給をより確実にする狙いがあります。
なぜ追加オークションが必要とされるのか
追加オークションが必要とされる理由は、長期的な予測だけでは電力供給の安定性を確保しきれないからです。
4年前に行うメインオークションは大まかな需給計画を立てる上で有効ですが、現実にはその後に想定外の変化が数多く発生します。老朽化による火力発電所の廃止、新しい再エネや蓄電池の導入、あるいは電力需要そのものの変動など、変化要因は多岐にわたります。
こうした変化を放置すると、特定のエリアで供給力不足が生じ、停電リスクにつながりかねません。そのため、1年前にあらためて追加オークションを行い、不足分を補いながら需給の安定性を高める必要があるのです。
2026年度向けの全国規模での追加オークションはまさにその事例で、一部地域では不足が残る結果となり、制度の重要性と課題の両方が浮き彫りになりました。
2026年度追加オークションの結果と特徴
2026年度を対象とした容量市場の追加オークションは、全国規模で初めて行われた大きな取り組みでした。これまで特定のエリアだけが対象だったのに対し、今回は全国を対象としたことで、制度としての注目度も一段と高まりました。
その結果は、電力の供給力不足や価格の高騰といった課題を浮き彫りにしつつ、追加オークションの意義を再確認する機会にもなっています。
ここでは、全国実施の意義、供給力の目標値との比較、そして約定容量や総額の動向を整理しながら、今回の特徴を分かりやすく紹介します。
全国規模で初めて実施された追加オークション
2026年度に向けた追加オークションは、これまでと異なり全国を対象として開催されました。前年までは北海道・東京・九州の一部エリアだけが対象でしたが、電力需給の変化が全国的に大きくなってきたことから、今回は全国規模での調達が必要と判断されたのです。
これにより、地域ごとの需給状況の違いがより鮮明に浮かび上がりました。例えば、供給力が不足しているエリアと、十分な供給力を確保できているエリアとで明確に分かれたのです。
全国規模の実施は、制度の透明性を高めると同時に、日本全体で安定供給をどう確保するのかを考えるうえで大きな一歩となりました。
確保済み供給力と目標調達量の比較
今回の追加オークションでは、目標とする調達量と実際に確保できた供給力の差が大きな焦点となりました。
2026年度の目標調達量は約1億8,679万kWとされていましたが、調達オークション開催時点で確保済みの供給力は1億8,163万kWでした。差し引きすると約516万kWが不足している状態であり、これを追加オークションで補う必要があったのです。
結果的に、北海道や九州などのエリアでは不足が解消されず、供給信頼度(需要1kWあたり年間の供給不足期待値)が基準に届きませんでした。これは、追加オークションの存在意義を示すと同時に、なお残る課題を浮き彫りにする結果となりました。
約定総容量と約定総額の推移
2026年度を対象とした追加オークションでは、約定総容量が約830万kWに達し、経過措置を含めた約定総額は582億円という規模になりました。
これは前年(対象2025年度)の追加オークションと比較すると、約定総容量が133万kWだったのに対して大幅に増加しています。全国規模での初開催であったことに加え、需給状況の変化が大きく反映された結果といえます。
また、価格面でも全国平均単価は約7,017円/kWと、2022年度メインオークションの約5,178円/kWに比べて上昇しました。容量確保のために必要なコストが増えたことは、今後の電気料金や電力市場全体にも影響を及ぼす可能性がある重要なポイントです。
エリア別の供給力不足と安定供給への課題
今回の追加オークションでは、全国を対象としたにもかかわらず、地域ごとに供給力の偏りが明確になりました。特に北海道や九州をはじめとする一部エリアでは、基準となる供給信頼度を満たせず、不足が残ったまま終了しています。全国で電力を安定的に確保するには、こうした地域差をどう克服するかが大きな課題となっています。
続いて、供給信頼度の考え方、不足エリアの現状、そして安定供給のために必要な対応について段階的に見ていきます。
供給信頼度(EUE)と不足エリアの現状
容量市場では「供給信頼度」という指標が使われます。これは需要1kWあたりの年間の供給不足電力量(kWh/kW・年)を示すもので、数値が大きいほど停電リスクが高いことを意味します。
2026年度追加オークションの全国基準は0.007kWh/kW・年でしたが、北海道・東北・東京・中部、九州の各エリアではこの水準を下回れず、不足エリアとして扱われました。
追加で電源を確保する処理が行われたものの、北海道では0.1万kW、九州では4万kWにとどまり、全体的な不足状態は解消されなかったのです。つまり、オークションを通じてもなお地域的な供給不安は残り、制度の改善が急務であることが示されました。
北海道・九州で解消されなかった不足問題
特に顕著だったのは北海道と九州です。北海道は需要に対する電源の規模が小さく、送電網の制約もあって不足が解消されにくい構造を持っています。一方で九州は再生可能エネルギーの導入が進んでいるものの、太陽光発電など変動の大きい電源が中心であり、安定供給力の確保が課題となっています。
今回の追加オークションでも、これらの地域は十分な追加電源を確保できず、不足が続いたままになりました。結果として、将来の実需給年度に直ちに大規模停電が起きるわけではありませんが、エリア単位での電源対策を講じなければ、長期的な供給リスクが高まる可能性があります。
安定供給に向けた需給監視の必要性
今回の不足状態を踏まえると、容量市場の仕組みだけで安定供給を完全に保証するのは難しいことが分かります。特に不足エリアにおいては、追加オークションの実施後も状況が改善されなかったため、需給の監視を強化し、必要に応じて制度的な調整を行うことが求められます。
例えば、再エネや蓄電池の導入をさらに促進すること、送電網を強化して地域間での電力融通をスムーズにすることなどが有効です。また、老朽火力の代替電源をどう確保するかも重要な論点となります。
容量市場はあくまで供給力確保の仕組みの一つであり、持続的な安定供給を実現するには、複数の施策を組み合わせた総合的な対策が欠かせません。
発電方式ごとの応札・落札状況と傾向
追加オークションの結果を詳しく見ると、どの発電方式が応札し、どの程度落札されたのかに大きな特徴が見られます。
従来型の火力発電だけでなく、原子力や蓄電池といった電源も応札に加わり、電源構成の変化が浮き彫りになりました。一方で、老朽化した石油火力が落札されず、供給力としての役割が縮小している点は注目すべきです。
ここでは、安定電源と変動電源の落札率の違いや、石油火力の脱落、さらに原子力や蓄電池の動向まで、発電方式ごとの傾向を整理していきます。
安定電源と変動電源の落札率比較
追加オークションの全国合計応札容量は988万kWでした。そのうち約95%を占めたのが、LNGや石炭、原子力などの「安定電源」です。落札率は83.2%であり、全体の平均をわずかに下回る結果でした。
一方、太陽光などの「変動電源」は単独では1.8万kW、アグリゲート(複数の小規模電源をまとめたもの)では6.3万kWと小規模でしたが、いずれも100%落札されました。
加えて、発動指令電源(需給逼迫時に指令で稼働する電源)も42万kWが応札され、こちらも100%落札されています。つまり、安定電源は厳しい競争の中で一部が落札されなかった一方、変動電源や発動指令電源はすべてが市場に受け入れられる結果となりました。
石油火力の脱落と老朽化電源の課題
今回の追加オークションで最も特徴的だったのが、石油火力の大量脱落です。落札されなかった電源の応札容量158万kWはすべて石油火力であり、そのうち63.8%は運転開始から40年以上が経過した老朽電源でした。
こうした古い発電所は、燃料コストの高さや効率の低さから市場競争で不利となり、容量市場でも選ばれにくくなっています。短期的には供給力不足のリスクを高める一因ですが、中長期的には非効率な電源からの転換が進んでいるともいえます。
老朽火力の代替として、今後はより効率的なLNG火力や再エネ、蓄電池の導入が一層重要になるでしょう。
原子力・蓄電池が応札可能になった背景
今回の追加オークションでは、原子力や蓄電池といった電源が応札に加わった点も大きな注目ポイントです。
原子力は、メインオークションの時点(実需給の4年前)では再稼働の見通しが立っていなかったため応札できなかった設備がありました。しかし、追加オークションでは再稼働が現実的となった一部の原子力発電所が参加しました。また、蓄電池はメインオークション時点では入札がなく、今回初めて応札し、4.7万kWが加わっています。
これらは電源の多様化を示す動きであり、将来の電力市場で再エネとの組み合わせによる安定化に貢献する可能性が高いといえます。
発動指令電源の上限と調整係数の影響
発動指令電源については、各エリアの需要の1%を上限として調達が行われました。
結果として、いずれのエリアも上限を超えることなく応札が落札されました。ただし、北海道では調整係数が0.64、九州では0.97と、1を下回る数値が設定されていたため、北海道では発動指令電源の応札がゼロに終わりました。
調整係数は電源の供給力評価を補正する仕組みであり、これが応札行動に影響を与えた可能性もあります。今後は、需給逼迫時の対応力をどう確保するかという観点で、この仕組みのあり方が議論されていくでしょう。
落札価格の動向と市場分断の影響
容量市場の追加オークションでは、電源確保の有無だけでなく「価格の動向」も非常に重要なポイントです。
今回の2026年度追加オークションでは、市場が複数のエリアに分断され、それぞれで異なる約定価格が形成されました。メインオークションと比べて単価が大きく上昇したことや、応札価格分布において高値での応札が目立ったことは、今後の市場設計に大きな示唆を与えています。
最後に、エリア別の価格差、メインオークションとの比較、そして高価格応札の背景を段階的に解説します。
エリアごとの約定価格の差とその要因
2026年度追加オークションでは、供給不足の度合いやエリアごとの需給バランスに応じて価格が分かれました。結果として、北海道・東北・東京・中部ブロックは8,749円/kW、北陸・関西・中国・四国は8,213円/kW、九州は8,591円/kWと、全国一律ではなく地域ごとの価格差が生まれています。
これは「市場分断」と呼ばれる現象で、エリアごとの供給余力や送電網の制約などが影響しました。特に不足エリアでは価格が高止まりする傾向が強く、地域間の電力移動が十分に機能していない現状を映し出しています。
市場設計上、こうしたエリア分断は供給力確保のシグナルにはなる一方で、価格の不透明性を高める要因にもなり得ます。
メインオークションとの単価比較
追加オークションの平均約定単価は、7,017円/kWでした。これは2022年度に実施されたメインオークション(同じく2026年度を対象)の平均単価5,178円/kWと比べて大幅に上昇しています。
価格上昇の要因としては、追加オークションの性質上、応札できる電源が限定されていること、さらに不足エリアでの需給バランスの逼迫が影響していると考えられます。また、既存電源の市場退出や老朽火力の落札見送りによって、供給余力が減少したことも背景にあります。
このように、追加オークションは「最後の調整手段」としての性格を持つため、単価が高くなる傾向にあるのです。
応札価格分布とNet CONE超の影響
さらに注目すべきは、応札価格の分布です。
全国平均の応札価格の加重平均は3,705円/kWでしたが、Net CONE(新設電源が参入可能とされる基準コスト、約10,156円/kW)を超える高価格帯での応札が全体の約2割を占めました。これは、2022年度メインオークション時の2.3%に比べて大幅に増加しています。
Net CONE超での応札が増えた背景には、老朽火力のコスト上昇、燃料価格の高騰、供給不足へのリスクプレミアムが反映されたとみられます。
結果的に一部の電源は落札されずに市場から退出し、残った電源の単価が上振れする形となりました。つまり、容量市場の追加オークションは「高価格でなければ残れない市場」へと変化しつつあるのです。
まとめ
容量市場の追加オークションは、電力の安定供給を維持するために欠かせない制度的な仕組みです。
今回の2026年度を対象とした追加オークションでは、全国規模で初めて実施されたことでエリアごとの需給状況がより明確になり、価格差や市場分断といった課題も浮き彫りになりました。
一方で、老朽化した石油火力が落札されず市場から退出する一方、原子力や蓄電池といった新たな電源が参入したことは、エネルギー転換の過程を象徴しています。また、落札価格の上昇やNet CONE超の応札増加は、電源確保にかかるコストが年々高まっている現実を示しており、消費者や企業にとっても電力料金に影響する可能性があります。
こうした動向を踏まえると、容量市場の追加オークションは単なる「補完的な調達手段」にとどまらず、今後の電力供給の在り方を左右する重要な場となっていくでしょう。
エネルギー政策に携わる事業者や自治体だけでなく、電気を使うすべての人にとっても無関係ではありません。これからは、制度の仕組みを理解しながら、自分たちの生活やビジネスにどのような影響がおよぶのかを注視していくことが求められます。