系統用蓄電池の連系が進まない理由と2025年4月開始の追加対策の内容をわかりやすく紹介

再生可能エネルギーの普及とともに、調整力を担う蓄電池への期待が急速に高まっています。中でも電力系統に直接接続する「系統用蓄電池」は、その能力を最大限に発揮できる資源として注目されていますが、実際には接続までに多くの時間とコストがかかってしまうという課題がありました。

こうした状況を受けて、資源エネルギー庁では2025年4月から「充電制限を条件とした早期連系対策」を開始予定です。本記事では、その背景と仕組み、事業者が知っておくべきポイントをわかりやすく整理してご紹介します。

系統用蓄電池の注目度が急上昇している理由

再生可能エネルギーの導入が進むなか、電力の安定供給や調整機能を担う「系統用蓄電池」の重要性が高まっています。特に直近では接続の申し込みが急増しており、制度的な対応が急務となっています。この章では、蓄電池導入が急増している背景や、実際の系統接続状況、そして地域ごとの課題について整理していきます。

導入急増の背景と最新の接続状況

系統用蓄電池とは、電力系統に直接接続され、電力の充放電によって系統の安定化を支える設備です。近年、太陽光や風力といった再エネ電源の変動を吸収する存在として注目され、導入希望が急増しています。

実際、2024年12月時点で連系済みの蓄電池容量は約17万kWに過ぎませんが、接続検討中は約9,500万kW、契約済みでも約800万kWに達しています。これは申込みベースでの希望量が、実際の系統容量をはるかに上回っていることを示しており、制度整備の必要性が明らかです。

なぜ今、蓄電池なのか?

再エネの比率が高まる中で、発電量が天候に左右されるという不安定さが課題となっています。たとえば晴天時に太陽光発電が過剰になり、夜間には不足するという「出力の波」が起こります。こうした出力変動を吸収する調整役として、蓄電池が最適とされているのです。

また、系統用蓄電池は設置場所の自由度が高く、柔軟な配置が可能である点も評価されています。加えて、容量市場や調整力市場といった制度に参入する手段としても注目されており、経済的なインセンティブが導入の追い風となっています。

東北エリアにおける供給と需要のギャップ例など

たとえば東北エリアでは、地域全体の電力需要が800万~1,300万kW程度とされています。ところがこのエリアだけで、接続希望の蓄電池容量がその3倍近くにまで達しているのです。これは「接続すればいつでも充電・放電できる」という誤解や、将来的な利益を見越した“先取り申込み”が一因と考えられます。

現状では、すべての希望が実際に接続されるわけではありませんが、こうした申込みの集中が系統全体の運用に悪影響を与える可能性もあります。したがって、現実的かつ公平なルール整備が求められているのです。

早期連系を阻む「順潮流」の壁とは

系統用蓄電池が注目されている一方で、スムーズに接続できない大きな要因が「順潮流(じゅんちょうりゅう)」にあります。これは充電時に電力が系統へどのように流れるかという問題で、設備の負荷や安全性に直結します。この章では、充電と放電が系統に与える影響の違いや、充電側に求められる厳しい条件について詳しく解説します。

充電と放電、系統への影響の違い

蓄電池は電力を「充電する」ときと「放電する」ときで、電力の流れ方が大きく異なります。放電時は発電所と同様に電力を供給する形になり、これは「逆潮流(ぎゃくちょうりゅう)」と呼ばれます。一方、充電時は一般家庭や工場と同じように電力を受け取る側になるため、「順潮流」となります。

この順潮流は、既存の送電線や変電設備に大きな負荷をかける可能性があるため、接続には慎重な検討が必要になります。例えるなら、水道管に水を送るのは簡単でも、水を一気に引き込むとパイプが破裂しかねないというイメージです。

順潮流(充電)側に求められる系統容量と制約

放電(逆潮流)であれば、ノンファーム型の接続方式を使うことで比較的早く系統に接続できますが、充電(順潮流)では事情が異なります。充電時には、他の需要家(家庭や企業)と同じように安定した供給が求められ、電力が不足しないよう系統の「供給検討」が必要になります。

この供給検討では、既存設備で十分な余裕があるか、電圧の安定性を保てるか、周辺の需要と干渉しないかなどを詳細に評価します。もし不足が見込まれる場合は系統設備の増強工事が必要となり、これに数年単位の時間とコストがかかるのです。

なぜ放電は速やかに接続でき、充電は困難なのか

放電については、発電所と同様に「発電する電力を余剰の範囲で供給する」ことができれば、ノンファーム型という条件付きの接続でも運用が可能です。これはつまり、電力需要が少ないときは出力を抑える代わりに、すぐに接続を許可するという考え方です。

一方、充電は「系統から確実に電力を得る」ことが前提となるため、ノンファームのような柔軟な運用ができません。そのため、放電は制度的に接続しやすく、充電は厳しい要件が課せられるのです。ここに、蓄電池の早期接続を妨げる大きな壁があると言えます。

充電制限による暫定的な早期連系対策の概要

系統用蓄電池の導入ニーズが高まる一方で、系統側の物理的制約により、すぐに接続できない状況が各地で生じています。そこで資源エネルギー庁は、系統増強を行わずに早期接続を実現するための「充電制限付き暫定対策」を打ち出しました。この章では、その基本的な仕組みと、適用対象となる系統・蓄電池の範囲について解説します。

「系統増強なし」で接続を可能にする工夫

通常、電力系統に新たな電源や蓄電池を接続する場合、既存の系統容量を超えると新たな送電線や変電所の建設が必要になります。これには多くの時間と費用がかかり、迅速な導入の妨げとなってきました。

そこで政府は、設備の増強を行わず、運用上の工夫だけで接続を認めるという新たなアプローチを打ち出しました。その中心となるのが「充電制限」です。特定の時間帯に充電をしないことを前提にすれば、系統容量を圧迫するリスクが下がり、安全を確保したまま早期に接続を許可できるのです。

特定時間帯の充電制限とは?

この対策の鍵となるのが「特定の時間帯における充電の制限」です。たとえば夕方から夜にかけて照明や電気暖房などの需要が増える時間帯(点灯帯)では、系統全体に大きな電力が流れます。このような時間帯に蓄電池が同時に充電を行うと、系統設備の容量を超過し、最悪の場合は設備損傷や停電リスクが生じるおそれがあります。

そこで、事前に定められた時間帯には充電を控えることを条件として接続を認めるのです。これは一種の自己制御ルールであり、蓄電池事業者自身が運転スケジュールを調整することが求められます。

適用対象となる系統と蓄電池の範囲

この早期連系の暫定対策は、すべての蓄電池に適用されるわけではありません。対象となるのは、「基幹系統」や「ローカル系統」のうち、配電用変圧器を除いた中~高圧レベルの系統です。あわせて、対象となる蓄電池も一定規模以上の「系統用蓄電池」とされ、一般家庭向けの低圧用蓄電池は対象外とされています。

これは、制御対象が膨大になると運用管理が困難になるためであり、今後必要に応じて拡大が検討される予定です。また、この対策を適用して接続された蓄電池は、将来的にルールが変更された場合でも、それに従うことが前提とされています。

事業者への影響と注意点

充電制限を条件にした暫定対策によって、系統用蓄電池の早期接続が可能になる一方で、蓄電池事業者には新たな対応が求められます。とくに、自主的な充電制御を行うことが前提となるため、運用上のリスクや技術的な備えが重要となります。この章では、事業者側が把握しておくべきポイントや注意点を具体的に解説していきます。

自主制御の前提とそのリスク

今回の暫定対策では、一般送配電事業者(一送)が蓄電池の充電を直接制御する仕組みは、当面の間導入されません。そのため、充電制限は蓄電池事業者自身がスケジュールに基づいて運転を調整する「自主制御」で対応する必要があります。しかしこの方法では、操作ミスやシステム不具合により、制限時間帯に誤って充電を開始してしまう可能性もゼロではありません。

仮にそうしたミスが発生すると、系統設備が過負荷になり、損傷や停電につながるリスクがあります。したがって、事業者側には「フールプルーフ」(誤操作が事故につながらない設計)が強く求められています。

上限時間「12時間」とは?

充電を制限するとはいえ、制限時間が長すぎると蓄電池の本来の役割—つまり調整力や供給力としての活用が難しくなります。そこで、制度上は充電制限の上限を「全国一律で12時間以内」とする目安が設けられました。

これは、容量市場などで求められる「3時間の連続運転要件」なども考慮した設計です。12時間という上限はあくまで最大であり、実際の制限時間は系統の混雑状況や需要パターンによって異なります。仮に制限が12時間を超えることが見込まれる系統には、この早期連系対策は適用されません。

オフライン管理の限界と安全設計の重要性

現在の暫定措置では、充電の制御はあくまで「オフライン」で行われます。つまり、一送がリアルタイムに遠隔で制御する仕組みは整っておらず、各事業者が自らの判断で運転を管理する必要があります。この方式はスピーディに実装できる反面、制御の確実性という点では不安が残ります。

そこで求められるのが、安全側に配慮した設計です。たとえば、実際の潮流が想定よりも上回った場合でも、過負荷が発生しないよう余裕を持たせた設定が必要になります。こうしたセーフティマージンの確保が、トラブル防止に不可欠です。

一送が提示する系統情報の内容とは

蓄電池事業者にとって、「どの時間帯にどれだけ充電制限がかかるのか」は、投資判断に直結する重要な情報です。そこで一送は、接続検討時に月別・時間別の最大潮流値と運用容量値などの系統情報を事業者に提供します。これにより、事業者は事前に運転シミュレーションを行い、自社の蓄電池にとって実行可能な充電制限条件かどうかを判断できます。

また、充電制限の具体的な条件(時間帯や量など)は、運用申合書(給電申合書)締結までに一送から正式に提示されるため、接続前の段階で十分な情報収集と評価が可能となります。

複数蓄電池接続時のルールと配慮

同一系統内に複数の蓄電池が接続される場合、それぞれの運転が系統全体に与える影響を考慮しなければなりません。とくに早期連系対策の適用を受ける蓄電池が増えるにつれ、先に接続された事業者と後から接続を希望する事業者とのバランス調整が必要になります。この章では、先着優先の取り扱いや、条件変更の可否など、接続順によって異なるルールについて解説します。

先着優先の考え方が残る理由

電力システム改革では、これまで「先着優先」の原則が見直されてきましたが、今回の早期連系対策では一部この考え方が維持されています。その理由は、蓄電池は太陽光発電などと比べて設置場所の自由度が高く、混雑した系統を避ける選択がしやすいためです。つまり、後から参入する事業者には、系統の混雑状況を見て立地を選び直す余地があると考えられているのです。

早期連系対策はあくまで暫定措置であり、長期的な制度整備の中で再検討される可能性もあることから、現時点では先着の予見性を重視する方針がとられています。

既設蓄電池の条件は原則維持

すでに接続済み、または早期連系対策の適用を受けている蓄電池については、後から接続する事業者の存在にかかわらず、当初の充電制限条件が維持されます。これにより、先着事業者は事業計画の見通しを崩すことなく運用を続けることが可能です。

たとえば、ある蓄電池Aが「17時〜21時の間は充電禁止」という条件で接続されていた場合、後から接続する蓄電池Bが同じ系統に加わっても、Aの条件はそのまま変更されません。このルールにより、先着事業者の予見性が確保され、系統運用における混乱を防ぐ役割を果たしています。

後着事業者の対応と例外的な見直し条件

後着となる蓄電池事業者は、既設蓄電池の存在を前提に、自身の充電制限条件を新たに設定されることになります。ただし、系統状況に大きな変化があった場合—たとえば、一般需要の大幅な増加や他電源の接続変化など—には、すでに接続されている蓄電池の条件を見直すことも可能です。

これは、一般需要の接続を過度に制限しないための柔軟措置です。ただし、こうした条件変更は例外的な扱いであり、頻繁に起こるものではありません。また、後着の蓄電池が系統増強を選択して接続する場合でも、既設蓄電池の条件が不利に変更されることはないと明記されています。

制度の今後とまとめ

充電制限を条件とした早期連系対策は、蓄電池の普及促進に向けた暫定的な措置ですが、今後の系統運用のあり方を考える上でも大きな意味を持ちます。本章では、制度の運用スケジュールや今後の課題、さらには将来的な系統連系ルールの方向性について整理し、全体のまとめを行います。

2025年4月以降の適用スケジュール

今回の早期連系追加対策は、2025年4月以降に接続検討を開始する蓄電池案件から適用される予定です。すでに接続契約の申込みを済ませている案件でも、エリアの一般送配電事業者が対応可能であれば、暫定対策を前提とした回答を行うことが認められています。

ただし、この対策は現行の系統運用の仕組みを前提としており、あくまで短期的な措置です。そのため、接続可能な蓄電池の数には限界があることも念頭に置く必要があります。

空押さえ問題や接続競合への対応課題

接続検討の申込み件数が急増する中で、一部の事業者が実際には計画性の乏しい案件を多数申し込むことで「空押さえ」が生じているという指摘があります。このような申込みが実質的に系統容量を圧迫してしまい、本来接続できたはずの需要側や他の再エネ事業者にとって障害となることがあります。

さらに、系統用蓄電池と一般需要との間で接続競合が発生し、一般需要側に系統増強が必要となる事例も報告されています。これらの課題に対し、今後は申込みの実効性評価や、接続の公平性を担保する仕組みの整備が求められます。

蓄電池を含めた新たな系統接続ルールの検討方針

将来的には、今回のような暫定措置ではなく、蓄電池を含めた本格的な接続ルールの再設計が必要になると考えられています。特に、発電側で導入が進んでいる「ノンファーム接続」などの柔軟な仕組みを、蓄電池や他の需要設備にも応用する方向性が検討されています。

これにより、系統の増強を必要とせず、より多くのリソースを効率的に接続できる制度づくりが期待されています。今後の制度設計では、系統運用の透明性、予見性、公平性をいかに確保するかが大きなテーマとなるでしょう。

 

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